成人そけいヘルニアは、小児そけいヘルニアと違い、そけい部の腹壁を構成する筋膜が加齢とともに弱くなり、腹膜が飛び出してくることによって起こります。弱くなって飛び出す部位によって、外そけいヘルニア、内そけいヘルニア、大腿(だいたい)ヘルニアの3種類のヘルニアがあります。
成人そけいヘルニアの典型的な症状は、立つとそけい部が腫れ、横になると、または手で押すと腫れがなくなるという症状です。腫れが大きくても痛みがなければ治療の緊急性はありませんが、治すための唯一の方法は手術です。つまり、手術をしないと治らない病気です。手術をせずに長年放置していると、次第に大きくなり、横になっても戻りづらくなってきます。そけい部の腫れ以外に、痛み、腹部膨満感、便秘、戻りづらいなどの症状が出てくるようなら、そろそろ手術を受けたほうがいいというサインです。
手術は、小児そけいヘルニアとは違い、ヘルニアの出口で腹膜をしばるだけでは不十分です(一部、しばるだけで十分な成人そけいヘルニアもあります)。多くの場合、弱くなったそけい部の筋膜を広く補強する必要があります。さまざまな手術が開発されましたが、1990年代初めからヘルニアの出口を広くメッシュのシートでふさぐ手術が盛んに行われるようになりました。
現在日本では、10種類以上のそけいヘルニア修復用メッシュがあります。当院では、性別、年齢、ヘルニアの大きさや種類に応じて、これら10種類以上の中から8種類のメッシュを使い分けており、患者さんに最も適したメッシュを使用するようにしています。現在、メッシュシートも改良が進んでおり、より違和感や異物感の少ない、柔らかいタイプのメッシュや体内に入れた後に半分以上が溶けて吸収される半吸収性メッシュが使えるようになってきています。当院でも積極的に採用しており、術後の痛みや異物感がより少なくなるように常に努力しています。当院で使用しているメッシュを提示します(図1~8)。
手術は、そけい部の4~6cmの皮膚切開から、ヘルニアの袋(腹膜)をおなかの中に戻して、ヘルニアの出口をメッシュのシートで広くふさぎます。手術時間は40~50分程度で、局所麻酔や硬膜外麻酔に軽い全身麻酔(麻酔時間60~80分)を併用して行います。合併症には、出血、創感染、精管損傷、精巣動静脈損傷、創部浸出液貯留、再発、神経痛などの可能性がありますが、熟練した外科医が行えば安全な手術です。
当院では、成人そけいヘルニア手術を月曜日から土曜日まで、日帰り手術で行っています。午前中に手術をして、麻酔が覚めたら飲水・食事をして頂き、術後3~6時間後に退院となります。普段の日常生活は翌日から可能です。車の運転は術後3日目から、重いものを持つ重労働は1週間後から、スポーツは2週間後から可能です。また、皮膚は接着剤で閉創しますので、抜糸や術後の消毒は不要です(図9)。手術当日からシャワーによる入浴が、湯船に入るのは術後3日目から可能です。
術後診察は、約1週間目と約1か月目の2回です。尚、創部の状況に応じて、追加で再診して頂くことはあります。遠方の方は、電話やメールで創部の状態を確認します。また、帰宅後に心配な点がある場合には、随時電話やメールで相談に応じています。